多田展関連イベント 対談「水と水が交わるところ」
2018.6.16.土曜日
6月10日は、多田友充×森達也 対談「水と水が交わるところ」が行われました。
多田さんはこれまで森さんの本や映像を見てこられたそうですが、今回は森さんが持っているいくつかテーマのうち罪と罰について話が進められ、ノルウェーの刑事司法の話をしていただくことになりました。
ノルウェーは40年程前に刑罰の寛容化が行われ、今では再犯率が世界で最も低い国だそうです。森さんが過去に寛容化を進めたキーパーソンでもあるオスロ大学の犯罪学者と、その地で一番古くからある刑務所での受刑者へのインタビューをした時の話です。
刑務所内の受刑者が暮らす部屋では、テレビやキッチンなど、不自由のない一般的な暮らしのできる設備が整っていて、みんなで食事をしたりくつろいだりすることができるそうです。安定した暮らしの中で毎日規則正しく暮らし、共同生活のルールを学び、教育を受けることもできる環境です。
日本の刑務所の状況とは全く違うことに驚かされますが、ここでは刑罰を与えることよりも、受刑者が更生して社会復帰できることを一番の目的としているためです。
受刑者は、そこでの生活によって精神的な安定を手に入れることができ、社会に戻ることができるのだといいます。
また法務省での取材では、ほとんどの犯罪は、「愛情、教育の不足、貧困」の3つの原因があるために起こるのだという話があったそうです。
そのうえで犯罪者に対して社会がするべきことはその不足を補うことであり、それが刑罰であるという考えです。
受刑者は、出所する時に家と仕事を与えられて社会に戻ることができるため、再び罪を犯してしまうことはなく、その結果この国の犯罪数が減ったのだともいいます。
森さんは、日本の再犯率の多さや現在起こっている厳罰化に対し、悪を許せずに排除する考え方が強まることで起こる弊害といえるのではないか、という話をされました。
また、多田さんも過去にレジデンスやリサーチで、ノルウェーに滞在していた時の話をされました。そこではアーティストがラジオで展覧会の報道をしたり、日曜画家のための制作スペースがあったり、ゆとりがあってアーティストの在り方が日本とは大きく違うと感じたのだといいます。
対談は、ノルウェーでの刑罰の考え方や多田さんが体験したアートの環境を例に、日本という国を別の角度から俯瞰してみることへ話が進みました。
日本では組織や集団でいることの意識が強いところがあり、多様な考え方を受け入れない傾向がみられるのではないかということ。また、一つのことしか知らなければそれだけしか受け入れなくなってしまうが、もっと他国など違う環境に出て、多様な考えと比べてみることが必要だろうということ。それらのことは、見る人によっていろんな解釈をもたらし、一つの考え方にとどまることのない作品の在り方についてへと話がつながっていきました。
暴力や憎しみ、さまざまな感情、生や死など人が逃れられない普遍的な事柄を感じながら制作する多田さんの作品の話を交えながら、参加者の皆さんにとっても、多様な考えを受け入れることのできる個人や社会に目を向けるきっかけになったのではないかと思います。