9月4日 ギャラリーツアー

2016.9.4.日曜日

9月4日(日)はギャラリーツアーを開催しました。
今回は上村洋一さんの表現の核である「音」に焦点を当てたツアーを行いました。

今回のギャラリーツアーの内容を考えるにあたり参考にした書籍があります。
「サウンド・エデュケーション」(R・マリー・シェーファー著、鳥越けい子、若尾裕、今田匡彦訳、1992年、春秋社)
「音探しの本 リトル・サウンド・エデュケーション」(R・マリー・シェーファー、今田匡彦著、1996年、春秋社)
の2冊です。
この2冊には、音をより集中して「聴く」ために実践できることが練習問題のように書かれています。
ここに書かれていることを参考にしながら、作品を鑑賞する前のアクティビティと鑑賞後の質問を考えました。

今回の参加者は、高校生が4人と社会人の方が2人です。

まずは、野外ステージの上でウォーミングアップ。
5分間で聞こえた音を全て書き出します。

P1170214

何が聞こえたか少しご紹介します。

Aさん
・ゴーーーーーー
・パチ
・ジジジジジジ
・チリリリリリリ リリ
・ブロロロロ
・サラララララ
・ジャー
・ピギィ
・スイッ
・カチャカチャ
・ガゴン

Bさん
・虫の羽音
・鳥
・水
・風
・子供の声
・車
・足音

Cさん
・せみ(ジージー・ツクツクホーシ)
・虫(リリリリリ)
・水の音(サーッ)
・ゴオーッ(風の音?)
・トラックの音
・虫取りあみをおろす音
・軽いもので地面をたたく音

いつもは虫と鳥の音がほとんどのACACも今日は日曜日ということもあって、家族連れが虫取りをしていたり、テラスで休憩している方がいたり、音の種類もいつもより多かったようです。

それから、書き出した中から人間が出した音と途切れずにずっと聞こえていた音を挙げてもらいました。

2つ目のアクティビティでは、1人が目を閉じて立っている周りで音を鳴らしてもらい、目を閉じた人は音のする方向を指さすというゲーム。
音の方向を意識してもらいます。

P1170218
それから、ギャラリーに移動します。
ここから上村さんも来てくれました。

まずは、場所を選び、最初にやったのと同様そこで聞こえる音を全て書き出します。

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それから、一人ずつ自分が音を聞いていた場所に行って聞こえた音を発表してもらいます。
その後の質問が3つ。
・聞こえてきた音の中で、絵が描かれた当時は聞こえなかったであろう音はありますか?
・20年後に聞こえなくなるであろう音はありますか?
・100年後はどうですか?

これをそれぞれの場所で行いました。
少しご紹介します。

関野凖一郎「堤川工事場(河の工事場)」

P1170238
聞こえた音
・カラスの鳴き声、2羽居て共鳴している
・波、水の音
・ポコポコという機械音

P1170229

上村さんいわく、録音時にタンカーが通っていてポコポコいう音はその音だそうです。

この絵は制作年は1938年。
作品の中にはモーターで動きそうな船が描かれていますが、音は違うのではないかという意見がありました。
また、20年後にも船の音は変わっているかもしれないということと、100年後には堤川の辺りは埋め立てされているかもしれないという参加者の方の予想でした。
棟方末華「十和田奥入瀬之賦」、「奥入瀬・雲井の瀧」(2点)

P1170240
聞こえた音
・水が落ちる音
・雨音
・サーッと水が流れる音
・たまに鳥の声
・空気がこもったような水の中みたいな音
・カエル

100年後にはどうなっているかと聞くと、水が枯れてしまって水の音はしないのではないかという意見がありました。
ただ、基本的には自然の音だけなので、あまり変わらないのではないかという意見でした。

関野凖一郎「尻屋崎」では、ちょうど馬が鳴く声が聞こえました。

P1170241
しかし、20年後には馬の声は聞こえなくなっているのではないかとの意見がありました。
理由を聞くと、この声を発した馬はもう20年は生きていないのではないかとのこと。
確かに、尻屋崎の馬は20年後にもいるかもしれませんが、この馬はもういないかもしれません。

最後に、織田重信「後藤伍長銅像」

P1170239
メモにはイラストも描かれていましたので、写真でご紹介。

P1170236

聞いただけでびしょびしょになりそう、というコメントがまさに、そういう音ってありますよね。

最後には上村さんが録音に使っているという、無指向性のマイクで捉えた音がどう聞こえるのかを聞かせてもらいました。

P1170231s P1170233s P1170235s
上村さんは「機械が聞いている」という言い方をしていましたが、録音された音というのは人間が耳で聞いている音とは異なります。
同じ音でも人によって、場所によって、聞こえ方が異なるのと一緒で、音一つでも捉え方が無限に広がるような気がしました。

また、関野凖一郎「堤川工事場(河の工事場)」で音から作品の中の船の存在に改めて気づき船の形状を観察したように、音を聞きながら作品を見ることで、見ているつもりで見えていないものが改めて浮かびあがってくるような感覚を覚えました。

余談ですが、今日参加してくれた高校生のみなさんは、3年前に山崎阿弥さんの出張ワークショップでお伺いした中学校美術部の出身でした。こうやって出張ワークショップの何年も後にまた来てくれるのはとても嬉しいです。

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