ふるさかはるかワークショップ「雪の木版画-道具を使う人びと」
2017.3.12.日曜日
冬の芸術講座2017「どこかの面影」の最後のプログラム、ふるさかはるかさんによる「雪の木版画-道具を使う人びと」を3月11、12日(土、日)に開催しました。
ふるさかさんは約14年前から北欧に住む「サーミ族」のもと度々を訪れ、サーミの暮らしを間近に見て体験する中で、人々が使う道具が北極圏の厳しい環境の中で自然と付き合う態度を表していることに気づきます。
同時に、独自の自然観が見え隠れする彼らの言葉を記録しはじめます。近年はその体験をもとに人間と自然を媒介するものとしての道具と、彼らの言葉から着想して作品を制作しています。
今回は、サーミの人々と同様に北国の青森で、人々がどんなことを考えて雪と付き合っているのかを参加者の人達と一緒に考え、それを基に木版画を作るワークショップを組み立てました。
まずは1日目。
最初にふるさかさんがサーミの村を訪れた時の写真を見せてもらいながら、サーミの暮らしについてお話いただきました。
サーミの人達がはいているトナカイの毛皮で作った靴を見せていただきました。
参加者のみなさんには雪暮らしの道具の写真を持ってきていただきました。まずはそれをみんなで見ながらその道具についてお話しました。
灯油を入れるための電動ポンプやゴミ出し用に使っているそりなど今、自宅で使っている道具もあれば、ネットで見つけてきたという、昭和40年代頃の青森市内の写真に写る、雪を踏み固めるための藁靴の写真や馬橇の写真、寒風干しの写真など、色々な年代の写真が集まりました。
参加者の方が20代から70代まで幅広かったので、昔の写真については、この道具はこうやって使ったとか、あの豪雪の年はどうだったとか、実際のお話を聞くことができました。
青森では自動車が一般的になるまでは除雪はせずに、雪は踏み固めていたんだそうです。自動車が走るようになって除雪が必要になり、雪が辛いものとして認識されるようになっていったのでは、という考察がとても印象的でした。
そして、子供の頃の雪遊びの話や、ストーブの周りの家族団らんの話など、みなさんの話をまとめてみると、雪は辛いものや戦うものではなく、楽しむもの、という青森の人の姿勢がぼんやりと見えてきました。
それから、話をもとに、ワークシートに書き込みをしていきます。
・いつの時代のものですか?
・今も使っていますか?
・素材は何でできていますか?
・どんな時に誰が使いましたか?
などの質問に答えながら、道具が使われていた状況=自然の中に置かれた人間がどんな状況にあったのか、どうその状況と付き合おうとしたのかを探ります。
次に、もう1つのワークシートに、その道具に関係して気になったり思い出したりしたフレーズを書き出します。
更に、その言葉を7~8文字に短縮して言葉を作ります。これがこれから作る版画のタイトルのようなものになります。
例えば、灯油ポンプを選んだ方は「あと何缶ある?じゃあ電話しておくよ。火曜に配達してくれる、朝8:00頃。」というフレーズから、「カヨウニハイタツ」という言葉をつくりました。
角巻(大きなストール状のもので、コート代わりのもの)を選んだ方はお母さんが言っていた「寒いからまがなって~(くるまって)」というフレーズから、「マガナッテ」という言葉をつくりました。
津軽弁がいい感じです。
カタカナにするのは、版木を彫るときに彫りやすいからです。
ここまでで1日目の午前中が終わりです。
みんなで喋りまくって集中した時間でした。
午後は下絵を考え、
版木に転写して
彫り始めました。
2日目は午前中は版木の彫りの続きをしました。
早い人は午前中から刷りを始めます。
今回は墨汁と、水彩絵具のピンク、水色、黄色から1色選んで2色刷りにします。
色も楽しいのですが、濃度や刷る時の力の入れ方で濃淡を付けられる墨汁が工夫のしどころです。
時間ぴったりに全員分が完成!
他の人の分を集めて、特製の包み紙に包んで図録に仕立てました。
包み紙には、内側に1日目に書いてもらったフレーズと言葉が印刷されています。
みなさんの作品を並べて見てみると、冬の情景を描いていても、懐かしさで温かい気持ちになるような場面や楽しい場面が多いことに改めて気付きます。木版画独特の風合いも一層温かみを感じさせます。
青森市は豪雪で大変だ、というばかりではなく、雪は降るものだからせっかくならその季節を楽しみましょう、という気持ちを青森の人は持っているのだということが伝わるような作品集になりました。